接骨院の怖い話
2022年05月27日
久々のブログアップとなります。本日は、接骨院について少々お話をさせていただきたいと思います。骨折や捻挫、交通事故などの外傷で、整形外科ではなく接骨院の受診を検討される方もいらっしゃると思います。そもそも接骨院とは何なのか?接骨院とは、柔道整復師という国家資格取得者が施術を行う治療院の事です。歴史を紐解くと、1936年(昭和11年)より接骨院の施術に対し、健康保険の給付が開始されています。我々整形外科(医科)とは違って、健康保険の該当となる範囲が狭いのが特徴です。具体的には保険給付の対象となる疾病は、「外傷性の骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷(肉離れなど)のうち、急性または亜急性の疾病」に限られます。慢性期の関節疾患や脊椎疾患、肩こり、慢性筋肉疲労、下肢の痺れ、リウマチなどの非外傷性疾病は保険給付の対象とはなりません。また交通事故の後遺症や、脳疾患後遺症、神経痛、長期間改善の見られない長期の施術なども同様に健康保険は使用できません。
しかしながら、世の中の多くの接骨院では本来給付対象となる疾患以外も自由診療という形で施術が行われているのが現状です。柔道整復師は放射線を扱う事が出来ないため、そもそも骨折という診断を精確に出来るか疑問です。最近ではエコーを用いて「診断」を行う接骨院もあるようですが、そもそも「診断」は医師免許を持つ医師でなくては行ってはいけません。つまり、接骨院でエコーで診断、施術というのは厳密に言うと医師法違反行為となり、違法行為です。残念ながら、こうした違法診断、違法施術が横行、野放しになっているのが現状です。理由のひとつに柔道整復師の持つ政治力があります。現在全国では8万人近い柔道整復師がいて、非常に大きな政治力を持っています。法規制を強化すると選挙で票が得られなくなることを恐れ、どの政党も接骨院の現状にメスを入れるのに消極的です。結果的に不利益を被るのは残念ながら患者さんということになります。そこで、接骨院がらみで過去に私が経験した怖い事例を2例ご紹介したいと思います。
事例⓵ 骨肉腫が見逃され下肢切断に至った中学生の症例
私が横須賀の病院で経験した症例です。症例は15歳男児。陸上部で短距離走をやっている選手でした。3か月前から右ひざ周囲の痛みがあり、最寄りの接骨院を受診しました。そこでは「成長痛」と「診断」され、毎日のように施術に通っていました。しかし、症状が良くなるどころか、どんどん腫れと痛みが強くなり、気が付けば部活動はおろか日常生活にも支障が出て来たとのことで、当時勤めていた病院の外来を受診されました。目視の時点で明らかに成長痛とは考えにくいほど膝が腫れあがっており、レントゲン撮影を行ったところ大腿骨遠位部の骨破壊像を認め、骨腫瘍が強く疑われる初見でした。ただちに県立こども医療センターに紹介したところ、Ewing肉腫という骨肉腫(骨のがん)の一種であることが分かりました。
骨肉腫は早期に発見されれば、抗がん剤の投与を行い、病変を縮小させたのちに骨ごと病変を切除し、凍結処理をしてがん細胞を死滅させてから再度移植をすることで根治させることが出来ます。しかし、この症例ではすでにがん細胞の浸潤がこのような治療が出来る範囲を超えるところまで来ており、結局この子は右下肢を切断することになりました。医療機関を受診せず、接骨院での施術を漫然と続けた結果、とても悲しい結果となってしまいました。幸い一命は取り留めましたが、もうあと1、2か月早く医療機関を受診していれば患肢を温存できたハズです。親御さんとしても、どうしてもっと早く医療機関を受診させなかったのか、悔やんでも悔やみ切れないと思います。この子の治療を行った接骨院の罪は深いと言わざるを得ません。
事例➁ 施術によりろっ骨を複数本折られた中年女性の症例
これはつい1年ほど前に起きた案件です。もともと当院に骨粗しょう症でかかりつけの患者様が、たまたま知人に勧められ、横浜駅近くの某接骨院で施術を受けました。その時に脇腹にミシっと音がして、激痛が走り、その旨を柔道整復師に伝えたそうです。しかし、そのまま施術は続き、終わったころには動けないくらい痛みが増してしまいました。患者様はその旨伝えると、「この治療は10回セットの治療だから、途中で止めるとさらに痛みが増しますよ」と脅され、釈然としないまま帰宅されました。その2日後にあまりの激痛で当院に相談に見え、レントゲン撮影を行った所、右のろっ骨が3本骨折していました。医療類似行為で骨折が起きるのはもはや傷害罪です。私はただちに診断書を作成し、患者様には弁護士に相談するようお伝えしました。
最初は接骨院側は自院で起きた骨折ではない、と言い張り、当院にも意見書を求めて来ました。その後も接骨院からは誠意ある回答が得らえず、当院での骨折治療費の支払い請求にもダンマリの状態が続きましたが、患者様側の弁護士が介入し、刑事告発を視野に入れ交渉したところ突然全面的に非を認め、治療費と慰謝料の支払いに応じました。このケースでは、極めて因果関係がハッキリしている上に、患者様と当院の間に信頼関係があったため、いわばタッグを組んで臨めたので何とかなりましたが、多くのケースでは「同意書」を書かされていることもあり、泣き寝入りになるケースも少なからずあるのではないか、と推察します。治療に行って、骨折を起こされたのでは患者様としてもたまったものではありません。医療類似行為には常にこうしたリスクがあることを認識する必要があります。
上で紹介した2症例は氷山の一角にすぎません。私が経験しただけでも、同様の事案は十数件あり、周りの医師に聞いてもこのような「被害」は後を絶ちません。もちろん、すべての接骨院、すべての柔道整復師が悪質だとは思いませんし、中にはとても腕の良い先生がいらっしゃるのも承知しております。しかし、接骨院で行われる医療類似行為は医療行為ではなく、ましてや診断を伴わない施術にはリスクがあります。もしかかりつけの接骨院があって、通いやすい等の理由でおかかりになりたいとしても、まずは専門医の資格を持った医師の在籍する医療機関できちんと診断を受けた上で施術を受けていただくことを強くお勧めしたいと思います。繰り返しになりますが、何はさておき、まずは診断が大事です。