手術を受けるタイミング
2021年10月29日
秋晴れの気持ち良い天気が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?これからの季節は食欲の秋ですが、私もつい食べ過ぎに注意したいと思います(笑)。さて、本日は保存治療の限界と手術のタイミングについてお話をさせていただきたいと思います。皆さまは整形外科における手術にどのようなイメージをお持ちでしょうか?残念ながらあまり良いイメージをお持ちで無い方も多いのではないかと想像します。私は勤務医時代に3000件近い手術を執刀させていただきましたが、手術をお勧めすると一定の患者様は非常に抵抗感を示されました。曰く「周りの友人は手術しても良くならなかった」、曰く「手術をしたら逆に歩けなくなるのでしょう」、曰く「もう先が長くないから」。
大前提として、手術をお勧めするのは、基本的には手術以外の方法で病状を根治させることが困難、と判断した時です。つまり、薬物療法、物理療法、理学療法、ブロック注射等あらゆる手を尽くしても病状が改善しない、または悪化傾向にある場合です。誤解していただきたくないのは、ほとんどの方は手術を行わず、いわゆる保存治療で病状を改善することが出来ます。病院勤務医時代よりも、保存的治療の幅が広がったと自負していまして、若い頃であれば手術をお勧めしたであろう症例でも実際何とか粘れてしまうことも少なくありません。しかし、これはもう手術以外どうしようもない、手術をしなければ益々ADL(=生活の質)が低下し、最悪寝たきりになってしまう、というケースもあります。
このようなケースでは、保存治療を漫然と行う事は害悪でしかありません(そして残念なことに「漫然とした治療」を行っている医療機関も少なくありません)。手術症例は速やかに手術が出来る病院へご紹介し、周術期のリハビリテーションに注力するべきだと考えます。当院は横浜市立大学附属病院を筆頭に、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター、横浜市立大学市民総合医療センター病院、神奈川県立こども医療センター、済生会横浜市南部病院、けいゆう病院、横浜新緑総合病院、東戸塚記念病院など、複数の医療機関と強力な病診連携を行っており、スムーズに患者様を紹介、逆紹介することが可能となっております。そして長年培ってきた人脈、そして経験からどの疾患ならどの病院にご紹介するのがベスト、というノウハウを持ち合わせています。
現代に於いて、「手術が失敗する」、ということはまずありませんが、思ったような結果にならない、ということは少なからずあります。これには大きく3つの要素があると考えます。一つ目は、タイミングを逃してしまったケース。二つ目は手術を受けた医療機関がその分野の手術を得意としていなかった(専門外だった)ケース。そして三つ目は周術期のリハビリテーションが思うように行かなかったケース。つまり裏を返せば、タイミングを逃すことなく、きちんと専門性のある医療機関で腕のある先生に執刀してもらい、術前術後のリハビリテーションをしっかり受けていただくことが手術成功への鍵となります。これがどれひとつかけても、満足の行く結果とはなりません。
それではどのタイミングがベストなのか?私は、痛みやしびれが原因で出かけるのが億劫になる、あるいはお友達に旅行に誘われても断らざるを得ない状況になったら、手術を検討するべきと考えています。多くの患者さんはまだ歩けるから手術は受けたくない、まだ歩けるから大丈夫と思いがちですが、これは大きな誤りです。その程度の運動能力では術後のリハビリテーションに耐えられません。しっかり歩けて動けるうちに手術を受けていただくことが大事です。関節疾患もそうですが、神経疾患(脊柱管狭窄症)などはますますタイミングが大事です。神経が完全にダメになってしまってからでは回復は見込めないからです。人間の身体というのは、骨の形だけ治せば治るというものではないのです。
また年齢を理由に手術を嫌う方もいらっしゃいます。たとえばあなたが80歳の女性だったとします。もうあと先何年も生きられるか分からないから、痛い思いをして手術を受けなくない、と思うかもしれません。しかし、よく考えてみてください。80歳ならまだまだ頭もはっきりしていて、心肺も手術に耐える事が可能です。しかし90歳になっても同じように元気とは限りません。その時にまだ寿命が来ていなくて、歩けないくらい痛くなってしまったり、しびれがひどくて寝たきりになってしまったらその時どう思うでしょうか?生きているのが辛くなるハズです。日本人女性の平均寿命は89歳を超えました。いかに痛みやしびれといった苦痛を少なく晩年を迎えることが出来るか、よく考えてほしいと思います。
横須賀の病院で勤務していた時に、85歳のおばあちゃんが居ました。この方はずっと両膝が悪く、非常に歩行が不安定な状況でした。骨粗しょう症も進行しており、転倒したらかなりの確率で骨折してしまう、と私には分かっていました。このため、再三にわたり両膝の人工関節手術をお勧めしました。あなたが私の母親だったら手術をしますよ、と。しかし、おばあちゃんは頑なに手術を拒み続けました。そしてある日、当直をしていると、おばあちゃんが救急搬送されてきました。レントゲンを撮ってみると、両方の股関節を骨折していました。そのまま入院となり、両方の股関節を手術することになりました。しかし、股関節の手術が無事成功しても、膝が悪いため、思うようにリハビリが進みません。結局拒み続けていた両膝も手術をすることになってしまいました…。
このケースでは、最初から両膝の手術を受けていれば、不要な股関節の手術は避けられたわけです。結局このおばあちゃんは経過中に腎不全を起こしたりして、大変でしたが、8か月近くに及ぶ長い、長い、リハビリを経て最終的には独歩で退院されました。「あの時先生の言うことを聞いて両膝の手術を受けていれば」、と泣きながら後悔されていました。後悔先に立たず、です。誤解していただきたくないのは、私は不要な手術は受けるべきではない、という立場です。しかし、本当に手術が必要なケースでは勇気をもって手術を受ける、という事が健康寿命を延ばすという点に於いては極めて重要です。もし手術を他院で進められたが迷っている、という方がいらっしゃいましたらぜひご相談ください。私が持っているノウハウを総動員して、術前、術後のリハビリテーションも含め全力でサポートさせていただきます。