整形外科領域における予防医学と骨粗しょう症について
2021年10月18日
めっきり秋めいて来ましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?院長の平出です。さて、本日は整形外科領域における予防医学の重要性についてお話させていただきたいと思います。皆さんは内科等では熱心に健診を受けられており、メタボ対策や、健康維持に努めておられると思います。現在、医学の世界は徐々に治療から予防医学へシフトしており、未然に病気を防ぐ、いわゆる未病の段階から対策をする事の重要性が盛んに問われています。一方、整形外科の領域ではどうでしょうか?みなさんご存知の骨粗しょう症や、これに伴うフレイルや運動器不安定症、ロコモティブシンドロームなどの概念は徐々に浸透しつつありますが、一般的にはまだまだ浸透していないというのが現場での率直な感想です。
脳卒中等の脳血管疾患で寝たきりになる方は全体と16.6%程度と言われておりますが、骨折や脊椎疾患、関節疾患など、いわゆる整形外科領域の疾患で寝たきりになる方は、実に全体の約25%、4分の1を占めます。にもかかわらず、整形外科領域における予防医学はあまり浸透しておらず、残念ながら骨折してから初めて骨粗しょう症が発覚するというケースも少なくありません。これは我々整形外科医の力不足という面も否めませんが、骨粗鬆症という疾患自体、整形外科以外でも内科や老年科など、複数の科で扱うため系統だったスクリーニングや治療が行われて来なかった、という背景もあります。全国的に見ても、骨粗鬆症の内科系疾患と比べると著しく低く、また神奈川県は全国ワースト3に入る1%未満という驚くべき低い水準です(公益財団法人骨骨粗鬆症財団2018年調べ)。
健診率は、もっとも高い栃木県で14.0%、もっとも低い島根県では0.3%と、47倍もの開きがありました。解析した結果、検診率が低い地域ほど大腿骨の骨折を起こしやすく、介護が必要になる傾向が示されています。公益財団法人骨粗鬆症財団は「骨粗鬆症による骨折や要介護者を減らすために、骨粗鬆症検診に力を入れるべき」だと主張しています。2015年度の骨粗鬆症検診の受診率は全国平均で5.0%と少なく、(1)栃木県(14.0%)、(2)山梨県(13.1%)、(3)福島県(13.1%)、(4)群馬県(13.1%)、(5)宮城県(12.1%)の順に高かった一方、一番受診率が低いのは、(47)島根県(0.3%)、(46)和歌山県(0.9%)、(45)神奈川県(0.9%)、の順で地域によって大きな差があることが分かりました。神奈川県知事は「未病」についてメディアでご発言される機会も多いようですが、それならぜひ骨粗しょう症の予防にも目を向けていただきたいと思います。
私は長年急性期病院で骨折や骨粗しょう症の治療に当たって来ました。その際、多くの患者さんは、「自分の骨は丈夫だと思っていた」、「まさか骨折をするなんて夢にも思わなかった」、など「根拠のない自信」をお持ちの方が大半です。しかしいざ高齢者が骨折を起こすと、手術が必要になるケースも少なくなく、また入院中に内科系疾患を合併したり、認知症が発症・進行するケースもあります。また、骨折が原因で寝たきりとなった場合、手術や術後のリハビリ、施設等の利用も含め、寝たきりにならなかった場合と比べ、生涯で1600万円ほども医療および介護費の差額が出てしまうという試算もあります。年金が年々削られる我が国に於いて、この1600万円は患者さんご自身のみの負担では終わらず、ご家族への負担に直結し兼ねません。人生100年時代に於いて、骨粗しょう症、骨折、寝たきりの問題は早急に対策が必要な由々しき問題です。
加えて昨今のコロナ禍で、外出を控える高齢者が大変増えています。自宅に引きこもると、益々筋力が低下し、骨密度も下がることが分かっています。筋力が弱く、骨密度が下がれば転倒リスクは増大し、万が一転倒した際の骨折・寝たきりリスクも跳ね上がることは言うまでもありません。ではどうすれば良いのでしょうか??まずは骨粗しょう症を専門とする医療機関で骨密度検査を受けることではないでしょうか?現在骨密度の測定方法は超音波法、レントゲンを使用したSEXA法、そしてDEXA法とあります。一般的な健診で行われる超音波法は残念ながら精度が低く、日本骨粗鬆症学会も、骨粗しょう症の検査はDEXA法(腰骨と股関節で骨密度を調べる方法)を推奨しています。当院は令和2年7月より最新のDEXA装置を導入し、希望される方への検査(もちろん保険適応です)を行っています。15分程度で終わる検査で、身体的苦痛もなく、金額的にも決して高く無いのでお気軽に受けていただくことが可能です。
また、骨折リスクが高い方には積極的に運動療法をお勧めしています。当院では国家資格を有した理学療法士が複数名在籍しており、骨折予防のためのリハビリテーションを積極的に行っております。骨折を予防するには、健康的な生活習慣の構築、早目の診断・治療、そして予防的リハビリテーションが不可欠です。患者さんの中には「どうせ先は長くないから・・」と諦めてしまう方もいらっしゃいますが、その考えは改める必要があります。寿命は自分で決められるものではありませんから、ね。いかに健康的に長生きするかがこれからの時代の一つの大きな課題です。幸いにして、骨粗しょう症も日進月歩で治療がとても進んで来ています。当院では骨粗しょう症と診断されたら必ず血液検査を行い、骨代謝の状態を詳しく調べた上で、その患者さんにもっとも適切な治療を選択するようにしています。このようなオーダーメイド治療は今の時代常識ですし、あてずっぽうの漫然とした治療はデメリットでしかありません。
この記事をお読みいただいた方は、是非これを機にお気軽にご相談いただければ、と思います。日本整形外科専門医、日本骨粗鬆症学会会員の院長が丁寧に対応致します。人生100年時代、自分自身が健やかに過ごすために、大事なご家族に負担をかけないために、今やれることをぜひやるようにしましょう。「整形外科のかかりつけ医」として、啓蒙活動を続け、全身全霊で皆さんの期待に応えられるよう、尽力して参りたいと思います。