「痛み止め」の誤解と真実
2019年08月31日
院長の平出です。今日は「痛み止め」について少々お話させていただきたいと思います。昨今、一部メディアで「本当は怖い薬」などとセンセーショナルな題名で治療薬が誤った形でクローズアップされることがあります。専門家の立場からすると、この手の記事はインパクトがあるものの、真実からは程遠く、誤解を招く危険性が非常に高いと憂慮しています。
整形外科は身体の様々な部位の痛みを扱う科目で、我々整形外科医はいわば「痛みのスペシャリスト」です。痛みにアプローチする際には、①薬物療法、②物理療法、③理学療法、④装具療法、⑤注射療法(トリガーポイント注射やブロック注射)などがありますが、やはり第一選択となるのは薬物療法=痛み止めです。
なぜ痛み止めを使用するのか?患者さんの中には「痛み止め」=「対症療法」、根本的な原因の解決にならないと考える方も少なからずいらっしゃいます。一部の医療機関で「とりあえず痛み止め」という使われ方をしているのもネガティブな印象を抱かれる一因かもしれません。しかし痛みが生じている場合、多くの場合そこには「炎症」が起きています。
痛み止めの正式名称は「解熱消炎鎮痛剤」です。熱を取り、炎症を鎮め、結果的に痛みを取り除くものです。私たちは、鎮痛効果はもちろんですが、むしろ抗炎症効果を期待して処方する場合がほとんどです。痛みの原因となっている炎症を鎮めないと、なかなか症状が緩和しない(=痛みが取り除けない)からに他なりません。
一方で、漫然と解熱消炎鎮痛剤を使用するのは危険です。胃潰瘍などの消化管障害のリスクも伴いますし、腎臓にも負担がかかります。したがって、解熱消炎鎮痛剤は短期間、短期集中で使用し、痛みが緩和したらスパッと止めるというのが正しい使い方です。逆に、痛みが生じてすぐの「急性期」に解熱消炎鎮痛剤を使わないと、脳が痛みの記憶を残してしまい、疼痛が慢性化する事があります。
今は昔と違って、慢性疼痛や慢性的な神経障害性疼痛(神経由来の痛み)に対する内服薬の選択肢も増えました。急性疼痛から慢性疼痛に移行してしまった場合にも、適切な薬剤を用いればかなりの確率で疼痛の緩和が得られます。また、薬物療法で治療効果が不十分な場合には、物理療法や理学療法、ブロック注射なども有効です。
疼痛治療の肝は、最初に適切な解熱消炎鎮痛薬の服薬、局所の安静を図る(=痛みのある部位に負担をかけない)ことです。それでも症状が慢性化してしまった場合には、漫然と消炎鎮痛薬を使用するのではなく、慢性疼痛治療に速やかに移行することが大事です。この移行するタイミングがとても重要で、痛みの専門家の腕の見せ所でもあります。曖昧な情報に左右されず、痛みでお困りの方は痛みの専門家である私たち整形外科医にぜひご相談ください。